眼窩内腫瘍は、眼窩腫瘍とも呼ばれ、目の奥にある「眼窩」という狭い空間にできる腫瘍です。眼窩には視神経、眼球を動かす筋肉(外眼筋)を支配する神経、眼動脈などが密集しており、そこにできた腫瘍は視力低下、複視、眼球の突出・偏位、眼球運動障害、眼瞼下垂などの症状を引き起こすことがあります。眼窩内腫瘍の手術では、視力や眼球運動を守りながら腫瘍を摘出することが最も重要な課題です。また、眼窩の位置は、鼻腔・副鼻腔、頭蓋底に近接しているため、腫瘍の広がりによっては耳鼻咽喉科・頭頸部外科との連携が必要になることがあります。松島医師は、頭蓋底外科、外科解剖、内視鏡手術、術中神経モニタリングの経験をもとに、腫瘍の種類・場所・広がりに応じた手術アプローチを選択し、視力だけでなく眼球運動・眼瞼・整容面まで考えた治療方針を検討します。
このページで分かること
- 眼窩内腫瘍の症状と、眼窩を専門に扱う科の連携
- 経鼻内視鏡手術と経頭蓋アプローチの使い分け
- 視覚誘発電位(VEP)モニタリングと持続眼球運動モニタリング
- 視力だけでなく眼球運動・眼瞼・整容面まで守る治療の考え方
- 頭蓋底外科の知識を眼窩・鼻腔・頭蓋底手術に生かす
眼窩内腫瘍について
眼窩は目の奥の空間で、視神経、外眼筋、眼動脈、脂肪組織などが密集しています。眼窩にできる腫瘍には、海綿状血管腫(海綿状静脈奇形)、神経鞘腫、髄膜腫(視神経周囲髄膜腫を含む)、涙腺腫瘍・多形腺腫、孤立性線維性腫瘍、リンパ腫・炎症性疾患など、さまざまな病変があります。
眼窩内腫瘍では、視力低下、複視(物が二重に見える)、眼球の突出(眼球突出)、眼球の偏位、眼球運動障害、眼瞼下垂などの症状が出ることがあります。一方で、特に良性腫瘍や緩徐に成長する腫瘍では、症状がほとんどなく偶然に発見されることもあります。
治療方針は、腫瘍の種類・大きさ・場所・症状によって異なります。良性腫瘍で小さく増大が乏しい場合には経過観察が適切なこともあります。視力や眼球運動への影響が出ている場合や、悪性が疑われる場合には、病理診断のための生検や腫瘍摘出を検討します。
眼科・耳鼻咽喉科と連携して方針を整理する
眼窩内腫瘍は眼科・耳鼻咽喉科・脳神経外科にまたがる領域です。各科と連携し、病変の性質と適切な治療方針を検討します。
経鼻内視鏡と経頭蓋アプローチを使い分ける
腫瘍の位置と広がりに応じて、経鼻内視鏡手術と経頭蓋手術を使い分け、視神経・眼球への負担を最小限にします。
視力だけでなく眼球運動・眼瞼・整容面まで考える
術中VEP・眼球運動モニタリングを用いて機能を守り、手術後の生活の質まで見据えた治療を目指します。
腫瘍の種類と症状
眼窩にできる腫瘍の種類と、それぞれで起こりやすい症状・特徴を示します。
| 腫瘍・病変の種類 | 症状・特徴 |
|---|---|
| 海綿状血管腫(海綿状静脈奇形) | 眼窩内で最も多い良性腫瘍のひとつ。眼球突出や視力低下が主症状。境界明瞭で摘出しやすいことが多い。 |
| 神経鞘腫 | 眼窩内の神経(感覚神経・運動神経)に沿って発生。眼球突出や視力・眼球運動への影響が問題になります。 |
| 髄膜腫・視神経周囲髄膜腫 | 視神経鞘に沿って発生する髄膜腫。進行すると視力低下をきたします。経過観察・放射線治療・手術の選択が重要。 |
| 涙腺腫瘍・多形腺腫 | 涙腺に発生する腫瘍で、眼球の突出・偏位が主症状。手術で被膜ごと摘出することが再発予防に重要。 |
| 孤立性線維性腫瘍 | 比較的まれな腫瘍。画像では境界明瞭なことが多く、手術摘出後の病理診断が重要。 |
| リンパ腫・炎症性疾患 | 眼窩リンパ腫やIgG4関連眼窩炎症など。画像所見だけでは鑑別が難しく、生検による病理診断が必要なことがあります。 |
| 眼窩に近い頭蓋底腫瘍 | 上眼窩裂・視神経管周囲・錐体部・蝶形骨などから眼窩に連続・浸潤する腫瘍。頭蓋底外科的アプローチが必要になることがあります。 |
診断と術前評価
眼窩内腫瘍の診断では、MRIが中心になります。腫瘍の形状、内部構造、造影効果、視神経との関係、外眼筋への影響、眼窩壁(骨)への浸潤を確認します。CTは骨の変化(骨破壊・骨増生)や石灰化の有無を評価するのに役立ちます。
手術を検討する場合には、腫瘍と視神経・眼動脈・外眼筋・眼窩壁との位置関係を詳細に確認し、どのアプローチが最も視神経への負担が少ないかを検討します。眼科で視力・視野・眼圧・眼球運動・眼底の評価を受けておくことが重要です。
悪性腫瘍や炎症性疾患が疑われる場合には、手術摘出の前に生検(一部を採取して病理診断)を検討することがあります。病理診断によって、その後の治療(放射線治療・化学療法・薬物治療)の方針が変わります。
治療の選択肢
| 治療 | 特徴 |
|---|---|
| 経過観察 | 小さく、症状がなく、増大が乏しい腫瘍では定期的なMRIで経過をみることがあります。 |
| 生検 | 悪性腫瘍や炎症性疾患が疑われる場合、病理診断のために腫瘍の一部を採取します。 |
| 手術(腫瘍摘出) | 症状がある、増大している、悪性が疑われる場合に腫瘍を摘出します。視力・眼球運動の温存が重要な課題です。 |
| 薬物治療 | リンパ腫・炎症性疾患(IgG4関連疾患など)では、ステロイドや化学療法が選択されることがあります。 |
| 放射線治療 | 視神経周囲髄膜腫、残存腫瘍、悪性腫瘍に対して検討されます。 |
眼窩内腫瘍の手術とは
眼窩内腫瘍の手術で最も重要なことは、視力を守ることです。視神経を過度に牽引・圧迫すると、術中・術後に視力が低下するリスクがあります。また、眼球運動、眼瞼(まぶた)の動き、眼窩の形状(整容面)も手術で影響を受けることがあります。
経鼻内視鏡手術と経頭蓋手術を使い分ける
眼窩内腫瘍への手術アプローチは、腫瘍の場所と広がりによって異なります。眼窩の内側(内側眼窩壁・眼窩底・視神経管周囲)にある腫瘍には、鼻腔から内視鏡を挿入して眼窩内壁を開放し腫瘍を摘出する経鼻内視鏡手術が有効なことがあります。顔への切開が不要で、術後の整容面への影響が少ない利点があります。眼窩の外側・上方・下方、または前頭蓋底や中頭蓋底に広がる腫瘍では、経頭蓋アプローチが必要になることがあります。腫瘍の広がりによっては、経鼻内視鏡と経頭蓋を組み合わせることもあります。
術中モニタリング(VEPと持続眼球運動モニタリング)
視覚誘発電位(VEP)モニタリングは、手術中に視神経への光刺激を与え、視覚情報が脳に伝わっているかをリアルタイムに確認する方法です。VEPの変化を監視することで、視神経に過度な負担がかかっていることを早期に検知できます。持続眼球運動モニタリングは、術中に外眼筋を支配する神経(動眼神経・外転神経・滑車神経)への刺激を確認し、眼球運動機能を保護するための神経モニタリングです。これらのモニタリングは視力・眼球運動を守るための補助手段であり、術後の機能を完全に保証するものではありませんが、手術中に神経への負担を早期に感知できるため、必要に応じて手術操作を調整することに役立ちます。
眼窩再建と整容面への配慮
眼窩壁(眼窩底・眼窩内壁・眼窩上壁)を削開または摘出した場合には、必要に応じて人工骨・チタンメッシュなどを用いて眼窩の形状を再建します。眼窩容積の変化は眼球の位置(眼球突出・眼球陥凹)に影響するため、整容面と眼球運動への影響を踏まえて再建方針を決めます。皮膚切開は眼窩の位置によって異なりますが、眼瞼の折り目(重瞼線)に隠れる切開、眉毛・眉毛下切開、眼窩内壁へのアクセスには経鼻内視鏡を用いるなど、傷跡が目立たないよう配慮します。
頭蓋底外科について
頭蓋底とは
頭蓋底は、脳の底部を支える骨の構造で、前頭蓋底(嗅神経・視神経が通る)、中頭蓋底(三叉神経・顔面神経が通る)、後頭蓋底(聴神経・脳幹周囲・椎骨動脈系)の3つの部位に分けられます。頭蓋底の内側には脳・脳神経・脳血管が存在し、外側(頭蓋外)には眼窩・副鼻腔・耳・頸部の構造があります。眼窩内腫瘍は、その位置が前頭蓋底・中頭蓋底に近接しているため、腫瘍が拡大すると頭蓋内に進展することがあります。
頭蓋底外科の考え方
頭蓋底外科は、脳・脳神経・脳血管と頭蓋外の構造(眼窩・副鼻腔・耳・頸部など)にまたがる腫瘍や病変に対し、頭蓋底の骨を部分的に削開することで神経や血管へのアプローチを工夫する外科の考え方です。脳を過度に牽引せず、神経や血管の周囲に適切な操作空間を確保することが基本的な考え方です。眼窩内腫瘍・頭蓋底腫瘍では、腫瘍がどこにあるかによって、前頭蓋底・中頭蓋底・後頭蓋底のどこを開くか、どの方向から腫瘍にアプローチするかが変わります。松島医師は、外科解剖の知識と頭蓋底外科の考え方をもとに、眼窩内腫瘍・頭蓋底腫瘍に対する手術計画を立案します。
治療で大切にしていること
眼科・耳鼻咽喉科と連携して治療方針を整理する
眼窩内腫瘍は、眼科・耳鼻咽喉科・頭頸部外科・脳神経外科にまたがる領域の病気です。腫瘍の種類・位置・広がりによって、どの科が中心となって治療を担うか、または複数科が連携して手術を行うかが異なります。まず病変の性質(良性・悪性・炎症性)を正確に評価し、それぞれの専門科と連携しながら最も適した治療方針を整理します。
経鼻内視鏡手術と経頭蓋手術を使い分ける
眼窩内腫瘍は眼窩の狭い空間にあるため、どの方向からアプローチするかが非常に重要です。眼窩の内側・下方・視神経管周囲にある腫瘍では、顔への切開を必要としない経鼻内視鏡手術が有効な場合があります。眼窩の外側・上方、または頭蓋内に進展している腫瘍では、経頭蓋手術が必要になることがあります。腫瘍の広がりによっては両方を組み合わせることもあります。どのアプローチが視神経・外眼筋・眼動脈への負担を最小限にするかを基準に選択します。
視力だけでなく眼球運動・眼瞼・整容面まで守る
眼窩内腫瘍の手術で最も重要なことは視力を守ることですが、それだけを目標にするわけではありません。複視を起こさないよう眼球運動を守ること、眼瞼下垂を残さないよう眼瞼挙筋を傷つけないこと、手術後の眼窩の形が自然に保たれるよう整容面に配慮することも重要です。
術中モニタリングと眼窩再建で機能と整容の両立を図る
視覚誘発電位(VEP)モニタリングと持続眼球運動モニタリングを用いて、手術中に視神経・外眼筋支配神経への負担をリアルタイムに確認しながら操作します。また眼窩壁の再建では、必要に応じて人工骨・チタンメッシュなどを用い、眼窩容積と眼球の位置が自然に保たれるよう配慮します。
頭蓋底外科の知識を眼窩・鼻腔・耳の奥・脳幹周囲の手術に生かす
眼窩内腫瘍が頭蓋内に進展した場合や、頭蓋底腫瘍が眼窩に浸潤した場合には、頭蓋底外科の考え方が不可欠です。頭蓋底の骨の構造を精密に把握し、必要に応じて骨を削開しながら、神経・血管への最小限の負担で腫瘍全体にアプローチします。
よくある質問
Q. 眼窩内腫瘍は脳神経外科で診てもらえますか?
はい、眼窩内腫瘍は脳神経外科でも扱います。特に頭蓋底に近い眼窩腫瘍や、頭蓋内から眼窩に連続する腫瘍は、脳神経外科と眼科・耳鼻咽喉科が連携して治療にあたることがあります。まずご相談ください。
Q. 経鼻内視鏡手術とはどんな手術ですか?
経鼻内視鏡手術は、鼻腔から内視鏡を挿入して眼窩・頭蓋底にアプローチする手術です。顔への皮膚切開が不要なため、傷跡が残らない利点があります。眼窩の内側・下方・視神経管周囲にある腫瘍に適していることがあります。ただし、すべての眼窩腫瘍に適用できるわけではなく、腫瘍の位置・大きさ・性質によって経頭蓋手術の方が適している場合もあります。
Q. 術中の視力モニタリング(VEP)とはどんな検査ですか?
視覚誘発電位(VEP)モニタリングは、手術中に目に光刺激を与え、視神経から脳にかけての電気信号をリアルタイムに記録する方法です。信号の変化から視神経への負担を早期に感知でき、操作を調整することに役立ちます。ただし、あくまで神経への負担を感知するための補助手段であり、術後の視力を完全に保証するものではありません。
Q. 手術後の視力は戻りますか?
術前から視力低下がある場合、手術で視神経への圧迫を解除することで視力が改善することがありますが、改善の程度には個人差があります。また、手術の操作によって一時的に視力が低下することもあります。視力の現状と術後の見通しについて、術前に詳しくご説明します。
Q. 眼窩の再建はどのように行われますか?
眼窩壁(骨)を削開または摘出した場合には、必要に応じて人工骨・チタンメッシュなどを用いて眼窩の形状を再建します。再建の目的は、眼球の位置(突出・陥凹)が自然に保たれ、眼球運動や整容面への影響を最小限にすることです。再建の方法は、腫瘍の場所と摘出した骨の範囲によって異なります。
Q. 入院期間はどのくらいですか?
腫瘍の種類・場所・手術アプローチによって異なります。経鼻内視鏡手術では比較的短期間での退院が可能な場合もありますが、経頭蓋手術では術後1週間前後を目安に退院を検討することが多くあります。術後の視力・眼球運動・全身状態を確認した上で退院時期を判断します。

松島 健
Ken Matsushima, M.D., Ph.D.
東京医科大学病院 脳神経外科 講師
顔面けいれん・三叉神経痛に対する微小血管減圧術、髄膜腫・聴神経腫瘍・眼窩内腫瘍を含む頭蓋底腫瘍、脳動脈瘤・脳血行再建を含む脳血管障害を専門としています。