脳血管障害とは、脳の血管に関わる病気の総称です。脳動脈瘤、もやもや病、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、頚動脈狭窄症など、さまざまな病気が含まれます。これらの病気は、突然起こる脳出血やくも膜下出血、または徐々に進む脳の血流低下として現れることがあります。脳血管障害の治療は、「今すぐ治療すべきか、経過をみてよいか」の判断から始まります。自然歴(治療しなかった場合の出血リスクや症状の経過)と、治療のリスクを正確に比較することが重要です。松島医師は、脳動脈瘤に対する開頭クリッピング術、もやもや病や脳主幹動脈閉塞症に対するバイパス手術、脳動静脈奇形や硬膜動静脈瘻などの脳血管障害に対して、術前画像評価、術中モニタリング、術中血流評価を重視しながら治療方針を検討します。
このページで分かること
- 脳血管障害の自然歴と、治療を選ぶ基準の考え方
- 開頭クリッピング術・バイパス手術・カテーテル治療の違い
- 術前画像評価と術中血流評価・術中モニタリングの役割
- 各疾患(脳動脈瘤・もやもや病・AVM・硬膜動静脈瘻・頚動脈狭窄症)に対する手術方針
- 治療後の生活と長期的な経過の見通し
脳血管障害とは
脳血管障害には、以下のような病気が含まれます。
- 脳動脈瘤:脳の血管の壁が膨らんだ状態。破裂するとくも膜下出血を起こします。
- くも膜下出血:脳動脈瘤の破裂などによって脳の表面に出血が広がる、緊急性の高い状態です。
- もやもや病:脳の主要な血管(内頸動脈終末部)が閉塞・狭窄し、代わりの細い血管が発達する病気。脳梗塞や脳出血を起こすことがあります。
- 脳主幹動脈閉塞症:脳に血液を送る主幹動脈が狭くなったり閉塞したりする病気。バイパス手術が必要になることがあります。
- 脳動静脈奇形(AVM):動脈と静脈が直接つながった異常な血管のかたまり。出血やけいれんで気づかれることがあります。
- 硬膜動静脈瘻(DAVF):硬膜(脳を包む膜)内の異常な血管吻合。静脈性の血流障害や出血をきたすことがあります。
- 頚動脈狭窄症:頸部の内頸動脈が狭くなり、脳への血流が低下したり、血栓が飛んで脳梗塞を起こしたりすることがあります。
- 脳出血:高血圧などにより脳の内部で出血が起こる病態。外科的に血腫を除去することがあります。
自然歴と治療リスクを比較して方針を決める
「治療しなかった場合のリスク」と「治療することのリスク」を正確に比較し、患者様とともに方針を検討します。
開頭手術・バイパス手術・カテーテル治療を適切に選ぶ
各治療の特徴と適応を踏まえ、最も合理的な方法を選択します。必要に応じてカテーテル治療専門医と連携します。
術前画像評価と術中血流評価を重視する
3D-CTA・MRA・脳血管撮影での詳細な評価と、術中蛍光造影・フロープローブによる血流確認を組み合わせます。
疾患の種類と症状
| 疾患 | 主な症状・発見のきっかけ |
|---|---|
| 未破裂脳動脈瘤 | 多くは無症状で、脳ドックや別の目的のMRI・CTで偶然発見されます。頭痛のみで気づかれることもあります。 |
| くも膜下出血 | 突然の激しい頭痛(「バットで殴られたような」)、嘔吐、意識障害。緊急対応が必要です。 |
| もやもや病 | 子どもでは過換気(泣いたり、熱い食べ物を吹いたりする)による一過性脳虚血発作。大人では出血で気づかれることが多い。 |
| 脳主幹動脈閉塞症 | 一過性の手足の麻痺、言語障害、視力障害。脳梗塞に至ることがあります。 |
| 脳動静脈奇形(AVM) | 出血による頭痛・麻痺・意識障害、またはけいれんで気づかれることがあります。 |
| 硬膜動静脈瘻(DAVF) | 耳鳴り(拍動性)、頭痛、眼球の充血・突出、視力低下、または脳出血で発見されます。 |
| 頚動脈狭窄症 | 一過性の手足の麻痺、言語障害(TIA)や脳梗塞で気づかれます。無症候性のこともあります。 |
| 脳出血 | 突然の手足の麻痺、言語障害、意識障害。高血圧が主な原因のひとつです。 |
診断と術前評価
脳血管障害の診断と術前評価には、以下の検査が用いられます。
MRI・MRA:脳実質の状態、血管の形、病変の広がりを確認します。
3D-CTA:脳動脈瘤の形状、向き、周囲の血管との関係を立体的に確認します。開頭クリッピング術の計画に役立ちます。
脳血管撮影(DSA):カテーテルを使って脳血管を直接造影し、血流の方向・速度・側副路を評価します。AVMや硬膜動静脈瘻の詳細な評価に必要なことがあります。
脳血流検査(SPECT・PETなど):もやもや病や脳主幹動脈閉塞症では、脳血流の低下部位を確認してバイパス手術の適応を判断するために用いることがあります。
これらの検査を組み合わせて、病変の詳細な評価と手術計画を立てます。
治療の選択肢
| 治療 | 特徴 |
|---|---|
| 経過観察 | 破裂リスクが低く、症状がない場合は定期的なMRI・MRAで経過をみます。 |
| 薬物治療 | 頚動脈狭窄症の抗血小板療法、高血圧管理、もやもや病の脳梗塞予防など。 |
| カテーテル治療(血管内治療) | 脳動脈瘤のコイル塞栓術、頚動脈狭窄症のステント留置術、硬膜動静脈瘻の塞栓術など。 |
| 開頭手術 | 脳動脈瘤クリッピング術、AVM摘出術、脳出血の血腫除去術など。 |
| バイパス手術 | もやもや病・脳主幹動脈閉塞症に対し、頭皮の血管と脳の血管をつなぎ、血流を補う手術。 |
| 内視鏡手術 | 脳出血に対して内視鏡で血腫を除去する低侵襲手術。 |
| 集学的治療 | AVMに対して、手術・カテーテル治療・定位放射線治療を組み合わせることがあります。 |
開頭手術・バイパス手術とは
脳血管障害に対する開頭手術では、脳動脈瘤のネック(頸部)にクリップをかけて破裂を予防するクリッピング術、AVMの異常血管塊を摘出するAVM摘出術、血腫を直接除去する血腫除去術などが行われます。
バイパス手術(脳血流再建術)は、脳に血液を送る血管が閉塞・狭窄している場合に、頭皮の血管(浅側頭動脈など)と脳の血管(中大脳動脈の皮質枝など)を縫合してつなぎ、脳への血流を補う手術です。もやもや病・脳主幹動脈閉塞症などが主な適応です。
術前画像評価として、3D-CTAやMRAを用いて病変の詳細な構造を把握し、手術計画を立てます。脳動脈瘤では、瘤の形・向き・ネックの幅・周囲血管との関係を確認することで、どのクリップをどの角度でかけるかを事前にシミュレーションします。
術中血流評価として、インドシアニングリーン(ICG)蛍光造影を用いて、クリッピング後やバイパス後の血流をリアルタイムに確認します。また、フロープローブを用いて吻合血管の血流量を測定することで、バイパスが機能しているかを術中に確認できます。
術中モニタリングとして、運動誘発電位(MEP)・体性感覚誘発電位(SEP)・脳波などを用いて、手術中の神経機能の変化をリアルタイムに監視します。
各疾患への手術方針
脳動脈瘤(未破裂・破裂)
未破裂脳動脈瘤では、「治療せずに破裂した場合のリスク」と「手術・カテーテル治療のリスク」を比較して方針を決めます。破裂リスクは、瘤の大きさ・形・発生部位・患者様の年齢・既往歴などによって変わります。破裂脳動脈瘤(くも膜下出血)では、早急に出血源を治療する必要があります。開頭クリッピング術とカテーテルコイル塞栓術のどちらが適しているかを、瘤の形・位置・患者様の状態を踏まえて検討します。
もやもや病・脳主幹動脈閉塞症
もやもや病では、脳血流低下によって脳梗塞や出血を繰り返すリスクがあります。脳血流検査で血流低下が確認された場合や、症状が繰り返している場合には、バイパス手術(浅側頭動脈—中大脳動脈吻合術、STA-MCA bypass)を検討します。術中にICG蛍光造影とフロープローブを用いてバイパスの開存と血流量を確認します。脳主幹動脈閉塞症でも同様に、脳血流低下があってバイパスの適応と判断された場合に手術を行います。
脳動静脈奇形(AVM)・硬膜動静脈瘻(DAVF)
AVMは、動脈と静脈が直接つながった異常血管のかたまりで、出血したり周囲の脳に血流を奪ったりします。治療は、脳血管撮影でナイダス(異常血管の中心部)の構造・供血動脈・導出静脈を正確に評価した上で、手術摘出・カテーテル塞栓術・定位放射線治療を単独または組み合わせて行います。硬膜動静脈瘻(DAVF)は、硬膜に生じた異常な動静脈短絡で、耳鳴り・眼球充血・出血などで現れます。カテーテル塞栓術が中心ですが、解剖学的特性によっては開頭手術が必要になることがあります。
頚動脈狭窄症
頚動脈狭窄症では、狭窄の程度・症状の有無・プラーク(動脈硬化)の性状などによって、薬物療法・頚動脈内膜切除術(CEA)・頚動脈ステント留置術(CAS)を選択します。症候性(TIA・脳梗塞の既往あり)の高度狭窄では、早期の治療介入が脳梗塞予防につながります。
治療で大切にしていること
病変の自然歴と治療リスクを正確に比較する
脳血管障害の治療で最も重要なのは、「治療しなかった場合に何が起きるか(自然歴)」と「治療した場合のリスク」を正確に比較することです。脳動脈瘤では、破裂リスクを大きさ・形・部位・患者背景で評価し、治療の利益がリスクを上回るかを判断します。もやもや病では、脳血流低下の程度と症状の経過を確認して手術適応を判断します。AVMや硬膜動静脈瘻では、出血リスクや静脈性血流障害の程度を評価します。
カテーテル治療・開頭手術・バイパス手術を適切に選ぶ
脳血管障害の治療には、カテーテルによる血管内治療(コイル塞栓術・ステント留置術・塞栓術)と開頭手術(クリッピング術・AVM摘出術・バイパス手術)があります。それぞれに適した状況と限界があり、病変の構造・患者様の状態・手術リスクを踏まえて選択します。必要に応じて、血管内治療専門医と連携して治療方針を検討します。
術前画像評価と術中血流評価・術中モニタリングを重視する
開頭手術では、術前の3D-CTA・MRA・脳血管撮影による詳細な病変評価が、安全な手術計画の基盤になります。バイパス手術では、吻合する血管の選択と術中の血流評価(ICG蛍光造影・フロープローブ)が欠かせません。術中は、運動誘発電位(MEP)・体性感覚誘発電位(SEP)などのモニタリングにより、神経機能の変化をリアルタイムに把握します。
頭蓋底外科と外科解剖の経験を生かす
脳動脈瘤の中には、脳幹周囲・頭蓋底の深い部位に発生するものがあります。こうした部位の動脈瘤(脳底動脈瘤・後交通動脈瘤・前交通動脈瘤など)では、頭蓋底外科的アプローチによって視野を確保し、周囲の神経・血管を守りながらクリップをかけることが必要です。外科解剖の知識に基づいた術前計画と手術操作が、深部病変の安全な治療につながります。
治療後の生活まで見据えて方針を考える
脳血管障害の治療は、出血を防ぐ・梗塞を防ぐという目標に加えて、治療後の生活を守ることを目的としています。バイパス手術後の血圧管理・活動制限、抗血小板薬の継続、定期的なMRI・MRAによる経過観察など、長期的な管理が重要です。治療後の生活への影響と注意点を丁寧にご説明します。
よくある質問
Q. 未破裂脳動脈瘤は必ず治療が必要ですか?
必ずしも全員に治療が必要なわけではありません。未破裂脳動脈瘤の年間破裂リスクは、大きさ・形・発生部位・患者様の年齢・既往歴などによって異なります。治療のリスクと自然経過のリスクを比較して、経過観察か治療かを判断します。小さく(5mm未満)、形が単純で、症状がない場合には、定期的なMRI・MRAでの経過観察が選択されることがあります。
Q. 開頭クリッピング術とカテーテルコイル塞栓術はどちらが良いですか?
どちらが適しているかは、脳動脈瘤の形・位置・ネックの幅・患者様の状態によって異なります。一般に、ネックが広い瘤・手術しやすい位置にある瘤はクリッピング術が適していることがあります。一方、カテーテル治療は開頭手術を避けられる利点があります。どちらが安全で確実に瘤を治療できるかを、画像を確認しながら検討します。
Q. バイパス手術(もやもや病)の適応はどう決まりますか?
もやもや病でバイパス手術を検討する際は、脳血流検査(SPECT・PETなど)で血流低下の程度を確認し、症状(一過性脳虚血発作・脳梗塞・出血)の経過を踏まえて判断します。無症候性のもやもや病すべてにバイパス手術が必要なわけではなく、脳血流低下が確認された場合や症状を繰り返す場合に手術を検討します。
Q. 脳動静脈奇形(AVM)は手術で全部取れますか?
AVMが機能的に重要な脳の領域にある場合、または深い部位にある場合には、全摘出が難しいことがあります。手術・カテーテル塞栓術・定位放射線治療を組み合わせる「集学的治療」が選ばれることがあります。どの方法を選ぶかは、AVMの大きさ・部位・導出静脈のパターン・出血歴を踏まえて検討します。
Q. くも膜下出血(脳動脈瘤破裂)の緊急手術はどう行われますか?
くも膜下出血では、脳動脈瘤を早急に治療して再出血を防ぐことが最優先です。CT・CTAで脳動脈瘤の位置と形を確認し、開頭クリッピング術かカテーテルコイル塞栓術かを決めます。緊急手術は発症後できるだけ早期に行うことが原則ですが、患者様の状態によっては準緊急(24〜72時間以内)になることもあります。
Q. 術後の管理や日常生活の注意点を教えてください。
脳動脈瘤のクリッピング術後は、術後のCT・MRIで手術の結果を確認し、状態が安定すれば退院します。バイパス手術後は、血圧管理と抗血小板薬の継続が重要です。退院後も定期的なMRI・MRAで経過を確認します。日常生活への影響は、手術の内容と術後経過によって異なりますが、多くの場合は職場復帰・運転・スポーツなどの時期について退院時に説明します。

松島 健
Ken Matsushima, M.D., Ph.D.
東京医科大学病院 脳神経外科 講師
顔面けいれん・三叉神経痛に対する微小血管減圧術、髄膜腫・聴神経腫瘍・眼窩内腫瘍を含む頭蓋底腫瘍、脳動脈瘤・脳血行再建を含む脳血管障害を専門としています。