まぶたや頬が、自分の意思とは関係なくぴくつく。顔面けいれんは、日常生活や仕事、人前で話す場面や運転中、食事中に負担となることがある病気です。多くは、顔面神経が脳幹から出る部分で血管に圧迫されることで起こります。治療は、経過観察、ボツリヌス療法、微小血管減圧術など、症状の強さや生活への影響を踏まえて考えます。松島医師は、術前画像や3Dシミュレーションを用いて血管と神経の位置関係を確認し、聴力や顔面神経機能を守りながら、原因に対する治療を目指す治療方針を考えます。
このページで分かること
- 顔面けいれんと、まぶたの一時的なぴくつき・眼瞼けいれんとの違い
- MRIで確認する血管圧迫と、症状との関係
- 手術時期、入院期間、剃毛や傷跡への配慮
顔面けいれんとは
顔面けいれんは、片側の顔の筋肉が自分の意思とは関係なく動いてしまう病気です。医学的には片側顔面けいれん、漢字では顔面痙攣と表記されることもあります。多くの場合、最初は目の周りの小さなぴくつきから始まり、徐々に頬や口元へ広がっていき、ぴくつきだけでなく、顔が引きつるように感じることもあります。
脳腫瘍などが原因となることもありますが、多くは、顔面神経が脳幹から出る部分で、近くを走る血管に圧迫されることで起こります。顔面神経が刺激されることで、まぶた、頬、口元の筋肉が勝手に収縮します。
顔面けいれんは、命に直接関わる病気ではありません。そのため、治療方針は症状の強さや生活への影響を踏まえ、患者様ご自身が納得して選択できるように検討します。症状が続くことで、人前で話しにくい、車の運転が不安になる、仕事や会食で気になる、ストローで飲みにくい、口元が引きつって食事がしづらい、顔の引きつりに伴って首や肩に力が入りやすいなど、生活の質に大きく影響することがあります。周囲の人に症状のつらさが伝わりにくいことも、この病気の一面です。
症状と画像所見の一致を確認する
顔面けいれんは画像だけで診断する病気ではありません。症状の出方、診察所見、MRI所見を合わせて確認します。
原因に対する治療と神経機能温存を両立する
微小血管減圧術では、原因となっている血管を移動させながら、顔面神経の機能をできるだけ損なわないようにすることを大切にしています。
生活に合わせて治療時期を考える
緊急手術が必要な病気ではない一方、長く我慢することが生活の質を下げる場合があります。ボツリヌス療法を続けるか、手術を考えるかを整理します。
症状と間違われやすい病気
- 片側の目の周りがぴくぴくする
- まぶたが勝手に閉じてしまう
- 目元と同時に頬や口元が引きつる
- 会話、食事、緊張、疲労で症状が目立つ
- 症状が強いと、片目を開けにくくなる
- 睡眠中にもけいれんが出てくることがある
症状が強くなると、まぶたが閉じてしまい、片目を開けていることが難しくなる方もいます。外来では、片側の目がほとんど開けられないほど、日常生活に支障が出ている患者様もいらっしゃいます。顔面けいれんは周囲から見える症状である一方、そのつらさは本人にしか伝わりにくいこともあります。
顔面けいれんに似た病気もあります。たとえば、両目を中心にまぶたが閉じやすくなる眼瞼けいれん、顔面神経麻痺の後に起こる病的共同運動、チック、疲労やストレスに伴う一時的なまぶたのぴくつきなどです。そのため、症状の場所だけでなく、片側か両側か、どの筋肉から始まったか、どのように広がったか、睡眠中にも症状があるかなどを確認することが大切です。
診断とMRIによる画像評価
顔面けいれんの診断では、まず症状の出方を詳しく確認します。MRIで血管による神経圧迫を確認することはできますが、画像だけで診断する病気ではありません。血管が顔面神経に接している所見は、症状のない方でもみられることがあります。そのため、画像所見だけで判断するのではなく、症状の出方とMRI所見が一致しているかを確認することが重要です。
典型的には、片側の目の周りから始まり、同じ側の頬や口元へ広がります。目元と口元が同じタイミングで動くことも特徴の一つです。患者様によっては、耳の周囲の違和感や、けいれんに伴う音のような感覚を訴えることもあります。
MRIでは、まず脳腫瘍などがないことを確認します。そのうえで、顔面神経の根元と周囲の血管の関係を評価します。どの血管が、どの方向から、顔面神経のどの部位に関与しているのかを確認し、手術を考える場合には、術前から減圧の方針を検討します。必要に応じて術前画像を用いた3Dシミュレーションを行い、どの方向から血管を移動させるかを検討します。
治療の選択肢
| 治療 | 特徴 |
|---|---|
| 経過観察 | 症状が軽く、生活への影響が少ない場合に選択されます。 |
| 薬物療法 | 顔面けいれんに対して確立された内服治療はありませんが、補助的に使われることがあります。眠気、ふらつき、依存性などに注意が必要な薬もあるため、効果と副作用を確認しながら使用します。 |
| ボツリヌス療法 | けいれんする筋肉に注射し、症状を一時的に抑える治療です。定期的な反復治療が必要です。 |
| 微小血管減圧術 | 顔面神経を圧迫している血管を移動させ、原因に対する治療を目指す手術です。 |
顔面けいれんの手術(微小血管減圧術)について
微小血管減圧術は、神経血管減圧術または脳神経減圧術と呼ばれることもあり、顔面神経を圧迫している血管を神経から離す手術です。耳の後ろを小さく開け、顕微鏡や内視鏡を用いて顔面神経の根元を観察します。傷跡や剃毛範囲ができるだけ目立ちにくくなるようにも配慮します。
手術では、顔面神経のどの部位が、どの血管に、どの方向から圧迫されているかを確認します。そのうえで、神経や血管に過度な負担をかけないように、原因となる血管を移動させます。けいれんを止めることだけでなく、聴力や顔面神経機能を守ることも重要な目標です。そのため、手術中には、顔面神経や聴神経の機能を確認するための術中モニタリングを用います。
多くの場合、術後早期から症状の改善が期待できます。一方で、症状の落ち着き方には個人差があり、手術直後に改善する方もいれば、時間をかけて徐々に落ち着く方もいます。術前には、期待できる効果とリスクを整理し、納得したうえで治療を選ぶことが大切です。
治療で大切にしていること
顔面けいれんとして治療してよいかを見極める
まず、症状の出方、経過、診察所見、MRI所見を合わせて確認し、顔面けいれんとして治療方針を考えてよいかを慎重に判断します。顔面けいれんは、すぐに命に関わる病気ではありません。一方で、周囲の方に症状のつらさが理解されにくく、長く悩まれている患者様も少なくありません。そのため、症状のつらさ、仕事や生活への影響、ボツリヌス療法を続ける負担、手術に対する不安を含めて、治療方針を考えることが大切です。
神経機能を守りながら、原因に対する治療を目指す
微小血管減圧術では、顔面神経、聴神経、小脳、脳幹、周囲の血管が密集した狭い領域で操作を行います。けいれんを改善することはもちろん重要ですが、聴力や顔面神経機能を守ることも同じように重要です。そのため、手術中には顔面神経や聴神経の働きも確認する術中モニタリングを用います。松島医師は、外科解剖研究の経験をもとに、神経と血管の細かな位置関係を確認しながら、神経だけでなく血管にも過度な負担がかからない減圧を心がけています。
血管の固定方法や傷跡にも配慮する
血管を移動させた後は、テフロンフェルトなどを神経と血管の間に留置し、圧迫が再発しにくい状態を保てるよう固定します。手術は耳の後ろの小さな切開で行い、剃毛範囲や傷跡ができるだけ目立たないよう配慮します。
生活に合わせて手術のタイミングを相談する
顔面けいれんは、緊急で手術をしなければならない病気ではありません。そのため、症状のつらさや仕事・家庭生活への影響を踏まえて、患者様の生活に合わせて手術のタイミングを相談できます。一方で、症状が長く続くと、人前で話すこと、食事、運転、仕事などへの負担が積み重なり、生活の質に大きく影響することがあります。また、将来的に年齢や全身状態によって、手術を含めた治療選択が限られる場合もあります。長く我慢することが、必ずしもよいとは限りません。ボツリヌス療法を続けるか、微小血管減圧術で長期的な改善を目指すかを、患者様の生活に合わせて一緒に整理していきます。
よくある質問
Q. 顔面けいれんは自然に治りますか?
発症初期には、症状が一時的に軽くなったり、しばらく目立たなくなったりすることがあります。ただし、典型的な顔面けいれんでは、自然に完全に治ることは多くありません。症状が軽い場合は経過をみることもありますが、生活に支障がある場合は治療を検討します。
Q. まぶたのぴくつきは、すべて顔面けいれんですか?
いいえ。疲労やストレスで起こる一時的なまぶたのぴくつき、眼瞼けいれん、顔面神経麻痺後の病的共同運動など、似た症状を起こす病気があります。片側の目の周りから始まり、頬や口元へ広がる、そして目元と口元が同時にぴくつく場合は、顔面けいれんの可能性を考えます。
Q. MRIでは何を確認しますか?
顔面神経の根元に、血管が接触・圧迫していないかを確認します。脳腫瘍など、顔面けいれんに似た症状を起こす他の病気がないかも確認します。ただし、顔面けいれんは画像だけで診断する病気ではありません。血管が神経に接しているように見えても、それだけで原因と判断できるわけではなく、症状の出方と画像所見が一致しているかが重要です。一方で、MRIで明らかな圧迫血管が見えにくい場合でも、症状が典型的であれば、実際の手術では小さな血管が顔面神経に関与していることがあります。そのため、画像だけで手術の可否を決めるのではなく、症状の出方、診察所見、MRI所見を合わせて判断します。
Q. ボツリヌス療法と手術はどう違いますか?
ボツリヌス療法で症状が十分に抑えられ、治療の負担が少ない場合は、継続することも大切な選択肢です。一方で、効果が短くなってきた、注射を繰り返す負担が大きい、症状を抑えるだけでなく原因に対する治療を知りたい、という場合には、微小血管減圧術について相談してもよいと思います。どちらが正しいというより、症状の強さ、生活への影響、MRI所見、年齢や全身状態を踏まえて、納得できる治療方針を整理することが大切です。
Q. ボツリヌス療法を続けるか、手術を考えるか迷っています。
ボツリヌス療法で症状が十分に抑えられ、治療の負担が少ない場合は、継続することも大切な選択肢です。一方で、効果が短くなってきた、注射を繰り返す負担が大きい、症状を抑えるだけでなく原因に対する治療を知りたい、という場合には、微小血管減圧術について相談してもよいと思います。どちらが正しいというより、症状の強さ、生活への影響、MRI所見、年齢や全身状態を踏まえて、納得できる治療方針を整理することが大切です。
Q. ボツリヌス療法を受けていても手術は相談できますか?
はい。以前にボツリヌス療法(ボトックス治療)を受けた方でも、微小血管減圧術を検討することは可能です。ただし、ボツリヌス療法の効果が残っている時期には、顔面神経の術中モニタリングで反応が確認しにくくなることがあります。そのため、手術を予定する場合には、目安として、手術の約3か月前からボツリヌス療法を控えていただくことがあります。最終的な時期は、症状の程度や最終注射日を確認しながら相談します。
Q. どのような場合に脳神経外科へ相談したほうがよいですか?
片側の目や口元のぴくつきが続いている、症状が頬や口元まで広がってきた、片目が開けにくいほど症状が強い、ボツリヌス療法の効果が短くなってきた、注射の負担が大きい、原因に対する治療を検討したい、という場合には相談を考えてよいと思います。また、顔面けいれんに似た病気もあるため、症状の出方とMRI所見を合わせて確認することが大切です。
Q. 手術を受けると、どのくらい改善が期待できますか?
多くの患者様で症状の改善が期待できます。多くの場合、手術直後から2週間以内にけいれんが消失、または大きく軽減します。一方で、すべての方で完全に症状が消えるとは限らず、症状が落ち着くまでの経過にも個人差があります。原因血管の種類、圧迫の部位、過去の治療歴、神経の状態などによって経過は異なります。
Q. 症状が長く続いていても手術はできますか?
はい。症状が長く続いている方でも、微小血管減圧術を検討することは可能です。顔面けいれんは、長く続いているからといって、ただちに手術ができなくなる病気ではありません。一方で、症状が長く続くほど、人前で話すこと、食事、運転、仕事などへの負担が積み重なり、生活の質に大きく影響することがあります。手術でどの程度の改善が期待できるかは、症状の出方、MRI所見、原因血管の状態、過去の治療歴などによって異なります。症状の期間だけで判断せず、現在の症状と画像所見を確認しながら、ボツリヌス療法を続けるか、手術で長期的な改善を目指すかを相談します。
Q. 手術のリスクと、その対策にはどのようなものがありますか?
微小血管減圧術は、顔面神経や聴神経、脳幹、小脳、周囲の血管が近い場所で行う手術です。そのため、聴力低下、耳鳴り、めまい、顔面神経麻痺、髄液漏、感染、出血などが起こる可能性があります。いずれも頻度は高くありませんが、生活に影響する合併症もあるため、症状のつらさ、生活への影響、手術で期待できる改善を含めて総合的に判断します。手術中には顔面神経や聴神経の働きを確認する術中モニタリングを用い、神経や血管に過度な負担がかからないよう確認しながら、症状の改善と神経機能の温存の両立を目指します。
Q. 入院期間はどのくらいですか?
施設や術後経過によって異なりますが、一般的には数日から1週間前後で退院を検討します。多くの予定手術では、術後はICUで1泊して状態を確認し、問題がなければ翌日から歩行や食事を開始します。術後は、歩行、めまい、頭痛、創部の状態などを確認し、退院後の生活を想定しながら退院時期を判断します。
Q. 高齢でも手術は受けられますか?
年齢だけで手術の可否が決まるわけではありません。全身状態、他の持病の有無、日常生活動作などを踏まえて、手術に耐えられるかどうかを総合的に判断します。高齢の方でも、全身状態が良好であれば手術を検討できる場合があります。
Q. 以前に手術を受けた後の再発でも相談できますか?
相談は可能です。ただし、再手術では癒着や過去の手術操作の影響があり、初回手術より慎重な判断が必要です。一方で、原因を再評価することで、追加治療の方針を検討できる場合があります。過去の手術記録や画像がある場合は、治療方針を考えるうえで参考になります。

松島 健
Ken Matsushima, M.D., Ph.D.
東京医科大学病院 脳神経外科 講師
顔面けいれん・三叉神経痛に対する微小血管減圧術、髄膜腫・聴神経腫瘍・眼窩内腫瘍を含む頭蓋底腫瘍、脳動脈瘤・脳血行再建を含む脳血管障害を専門としています。